大学1年(教養部8F44)の時は、松本市の郊外(松本市外本郷村惣社423)にあった農家に下宿した。下宿代が安かったからであるが、後でその理由を知ることになる。
農家のはなれに4人の学生が下宿していた。ある日、夕食時に明日朝6時に起床するように頼まれた。田植えをするというのである。秋には稲刈りもした。稲刈りの終わった日の夕食は、とても豪華だった。おかげて、農家の仕事も一通り学ぶことができた。
農家には、小学生の女の子がいたのだけれど、その娘は、よく宿題をもって私の部屋に来ていた。松本市は、標高600メートルの盆地である、周りを高い山で囲まれていて雪は多くはなく、乾燥して冷え込みが激しかった。地面が凍てつき風が吹くと水道の蛇口に静電気が走った。
ある夜、銭湯に行った帰り道、何やらチャランチャランと音がした。不思議に思って立ち止まると、その音も止まった。氷のお化けでも出てのかと思ったが、下宿について鏡を見てその音の正体が分かった。髪の毛に付いた湯気が寒さで凍って髪の毛にツララになって付いていたのが、互いにぶつかって出た音であった。眉毛も真っ白になっていた。
銭湯の近くに、不思議な下宿があった。上から見るとカタカナのロのような形をしていて、二階に上がると内側に廊下が一周していて同じ大きさの部屋が並んでいた。おそらく昔の置屋(遊郭)の建物のようだった。
大学には、使われない自転車が多く放置されていた。それを何台か下宿に拾って帰って修理して組み立てた。5月の休みに自転車に乗って郊外に出ると道がどこまでも続いていた。走っても走っても街が無いのである。3時間以上走ってとうとう35kmも離れた信濃大町というところに到着したが。日が暮れるまでに戻らなければならないので、すぐに松本に引き返すことにした。緩やかな下り道だったので、自転車がキイーキイーと音を立てながら走った。潤滑オイルが切れてきたのである。往復70kmの旅であった。
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